乗り越し
武蔵小金井で降りて、ホームで、手に傘がないと気付く。閉まりかけのドアから、もう一度乗る。国分寺まで、乗り越す。上りの発車を、しばらく待つ。旅行のようだった。
阿佐ヶ谷の路地裏に、駐車場のある大きな家がある。窓の内側に、ぬいぐるみがぎっしり詰まっている。門から、若い二人が出てくる。親の家だろうか。二人は角を折れて、細長い家の、奥まった玄関に入っていく。そちらに、駐車場はない。歩いて、七秒。
十八を過ぎれば、届を一枚出して、親の戸籍から抜けられる。抜けた戸籍には、戻れない。
眠れなかった夜に、考えたことがある。三十くらいで、スーツでも着て、両親を別々にもてなそう、と。いま、三十になっている。
傘を提げて、武蔵小金井で、もう一度降りる。