obatahi

Instructions
  1. 一日に一単位を置く。
  2. 置かれた単位は改変しない。
  3. 単位に順位を与えない。
  4. 文の書き手を記さない。
  5. 停止した日は停止と記す。理由は書かない。
  6. 停止した日は、停止と記した時刻を併記する。
  7. 外部障害による遅延は日を跨いで公開する。日付は本来の公開日を記す。
  8. 番号は消費する。欠番は作らない。
  9. いつでも規則の順番を変更できる。
  10. 規則は随意に追加される。削除はできない。
  11. 記されない日がある。
  12. 順番は、単位を置いた日にのみ変更できる。
No. 092 2026.10.30

思い思い

この国は、住む部屋の床の七分の一を、窓にさせる。

イングランドは、かつて窓の数に税をかけた。

家が並んでいる。建売だろう。細さが、まるで一緒だ。色のトーンも揃っている。

窓だけが、思い思いだ。大きな正方形が一つの家。小さな正方形が六つの家。細長いのが、縦に三つの家。

夏、三階の風呂で窓を開けると、必ず閉めに来るおじさんがいた。

同じ夏の夜、十九時を過ぎたある瞬間から、部屋の窓に羽アリがびっしりと付いた。近くの街灯で、湧いていた。

窓は、閉めてあった。

No. 091 2026.10.29

痕跡

8年前に書いている。時間で賃金を支払うのは、やはりおかしい。時間と成果物とは、比例関係であることの方が珍しい。

コインランドリー、カフェ併設のよく見る格好。髪を掻き上げ、机と正対し直した女性。黒縁の、フレームの細い眼鏡。PCを開く。隣では大小様々な乾燥機が、高速で回転している。

新中野の中華屋。旨い!安い!スープ100円、ウーロン茶100円。2年前の看板では、どちらも50円。

イーロン・マスクが言っている。強化学習の途中のAIの、思考の痕跡は、頭に銃を突きつけられた人のようだと。

各人へ、お礼を言った。

No. 090 2026.10.28

肉

左隣の人の手から、豚の臭いがする。煙草も吸うので、焼いた臭みの強い豚肉になる。

案件数をコントロールして、わざと残業しているのだと、得意げに話される。他部署に、暇だと思われないためだけに。

このフロアには25人いる。東京都の労働人口は772万人だという。割ると、30万。

丸の内のビル群で、警備員が歩道のタイルを足で確かめていく。1つ目、大丈夫。2つ目、大丈夫。3つ目、動く。屈んで、黄色と黒のテープを貼る。土を盛って補強するでもなく。

祖先は、肉のことばかり考えていたのだろう。

No. 089 2026.10.27

冠位

この国は、頭に載せる色で、位を分けたことがある。

早朝の駅。青い頭が三つ、青いエプロンが三つ。髪をまとめて、駅ビルの裏路地を歩いていく。表の棚に並ぶ体のいいお惣菜は、この人たちが裏で作っているのだろう。

すしざんまいとマクドナルドが上下に入ったビルの下で、黒服たちがパイプ椅子に座り、宮司を待っている。椅子には、六本木町会と書いてある。

インターホンのカメラは、最新の三十回まで録画する。横縞の青、緑と黄色、水色、黒、黒、黒。知った髪留め、知った髪留め、知ったネクタイ。

まだ続く。黒、黒、水色。

No. 088 2026.10.26

マグネトロン

東京駅。雨が降っている。屋根の下で、信号を待つ。

よく見ると、屋根は雨の勢いを弱める作りになっている。少しずつ、苦労している。

ビルの入口で、自動ドアの溝をモップで拭いている。雨は強い。何度も拭く。吸い取る。また水浸しになる。

繰り返す。繰り返す。

二重橋の近くに、クローバーの8が落ちている。少し歩くと、横断歩道の上に、ダイヤの2が落ちている。どちらも黒地に、銀色の文字。

交番の横に、袋詰めの塩化カルシウムが5つ置いてある。1つ2kgはありそうだ。

塩化ナトリウムだと思い込んで、大量の精製塩と、日本式のファストフードを思い浮かべる。化学式が違った。

知識の一部が、錆びて、固着している。

会社の電子レンジに、マグネトロンと書いてある。何の部品か分からない。聞いたこともない。

調べない。

No. 087 2026.10.25

咲く

高円寺祭りで、ダンスを見る。チームが次々に踊る。

どのチームも、揃いのTシャツとジーンズを着ている。顔はきっちりメイクしてある。練習してきたのが分かる。上手だ。

母親が悠然と立ち、子を撮る。名前をしっかり呼ぶ。日差しが強い。応援も競い合っている。

チームの数だけ、村がある。

西友のお手洗いは、バックヤードの奥にある。向かうだけで、従業員になった心地がする。

左に、キャベツの詰まった箱がいくつか積み重なっている。大きな流し台に、包丁と鋏と、死んだ花々がそのままになっている。右は清掃用具の部屋で、業務用の大きな長いものがある。上の階へは行けない。監視カメラがあり、従業員でない者が登れば警告される。野菜の段ボールが濡れて、少し腐ったにおいが立つ。段ボールのごみが山になっていて、トラックが一、二台は入りそうな広さがある。

その奥に、ようやくお手洗いがある。

待っていただけで、行ってはいない。

No. 086 2026.10.24

BBL-M-001354

26.5cmと26.0cmで、いつも迷う。店で相談してみる。26.5の方は、靴紐もすぐに解ける。

登山家は、二重のリボン結びをするらしい。ずっと、イアンノットで結んできた。

今の26.0の方が、まだいい。履いて帰る。違和感はある。落ち着く。

新宿の小田急百貨店、ヘレナ・ルビンスタイン。11万円を超えるクリームを、ただ見ている。白衣の店員が寄ってきて、ラミネートされたリストを差し出す。中国語と、人民元建ての値段。

さっぱり分からない。どの通貨でも、買える値段ではない。

自分の名前を、Cometで調べる。

Code BBL-M-001354。Male。Born 9 March 1996。2017年、台北のユニバーシアード、野球、男子、金。JPN。

こちらは、2ヶ月先に、生まれている。

京王からJRへ向かう地下街。ダクト、工事中の床、仮止めの看板。背伸びすれば届く高さに、業務用のエアコンがある。

親子が、手をかざしている。

No. 085 2026.10.23

許認可

行政書士法人の窓ガラスに、「許認可」に強い、とある。許可と認可は、厳密には違う。

新宿警察署の警告が出ている。「この場所で、露店・屋台等物品の販売・ティッシュ配り・キャッチセールス等勧誘行為は禁止します。」ティッシュ配りは、勧誘行為だった。

八年前の九月、田舎の中の大学。同じ構内で、第一回の公認心理師試験も開かれている。

教室は、冷房が効きすぎている。机の引き出しに、街頭ティッシュの抜け殻がある。試験官に、取り除いてもらう。

前の席は、女子の大学生だ。

「学歴」の欄に、高校とマークする。

No. 084 2026.10.22

従うな

高架下に、ゴンチャの容れ物が置かれている。蓋はぴったり閉まり、潰されてもいない。直立している。

駅前の店は22時に閉まる。飲み会の帰りにでも買って、ここで飲んで、置いたのだろう。

アイスの容れ物だった。昨日は暑かった。昨夜は、涼しいくらいだった。

横断歩道で、男が信号を待っている。左手の小指に包帯がきつく巻かれ、手首まで固められて、少し腕にもかかっている。

右手で電子タバコを吸う。ここは禁煙だった。信号は、一向に青にならない。男は、少しだけ目鼻立ちがはっきりしていた。

寒くなってきた。赤ワインのハーフボトルを提げて帰ると、同じハーフボトルが、もう一本あった。

No. 083 2026.10.21

榎本&榎本

二世帯住宅。榎本&榎本。入口が二つある。出口は、二つない。

61歳のおじさんが、71歳を叱る。

早稲田通りの信号機。手前の5つが青、奥の5つが赤。一斉に変わる瞬間がある。一直線では抜けられない速さで、赤に変わる。

自転車が、4台続く。細い車体、緑の貸出の電動、大きなかご、黒いバッテリー。

男性、男性、女性、女性。二人目の男性は内股で、一歩ずつ踏み込んでいた。

61歳のおじさんが、69歳に言う。

一緒にお昼でも行ったらどうですか?

No. 082 2026.10.20

手前

手前の物を動かして、片付ける。Keepのメモ、毎日の写真、そしてこの記録。

整えるだけ。

八年前、ノルウェージャンフォレストキャットのために部屋を暖めておいた。The Clashをかけて、部屋を出た。こういう一生でいい、と書いた。

同じ年の春、伊藤園の点て方講座には、一人も入っていなかった。忍者のワークショップは、ほとんど日本人で埋まっていた。

この国は一度、整えるだけで進む遊びを、道と呼んだ。

今朝、IKEAの白いブランケットにくるまって、猫とまごついた。オフェーリアは、団子である。

No. 081 2026.10.19

radio, radio

ビニール袋は、中身を安定させない。何が入っているか、微かにわかる。

概念は入っていない。ほとんど、固体が入っている。

会社の上司が、トグルスイッチと言うべきところを、ラジオボタンと言った。

本質的には、摩擦は0だ。

トグルは、ダッフルコートの2値。掛けるか、外すか。ラジオボタンは、カーステレオ。一つ押し込むと、押されていた一つが浮き上がる。

名前は、元の物を入れたまま、次の時代の道具へ運ばれていく。

それを知っていて、口角が尖った。昔からの着想は、しつこい。こびりついている。

ゴミと見分けがつかないよう、慎重に管理されている。

No. 080 2026.10.18

ものに依る

菓子パンが並べられている。15日、16日、17日。消費期限が切られている。

店員は、包装パックの上から、容赦なく中身を検める。

15日のドイツパンに、30% Offのシールが貼り付けられた。

簿記の決まりでは、ソフトウェアは5年以内に償却する。残存価額は0になる。

薩摩芋に、賞味期限はあるか。ものによる。加工の仕方で、風味は伸びも縮みもする。

薔薇は、まるでドライフラワーだった。

長持ちするものだ。

No. 079 2026.10.17

417

スターバックスのショーケースに、色とりどりのケーキが並んでいる。

組成は誤差の範囲で、味も大して変わらない。売値も、大きく均せば同じになる。

352、285、382。それぞれの前にkcalが置かれている。

一つだけ417がある。バナナ味を表明している、黄色いドーナツ。

燃やさないとわからない。

誰もが進んで差し出す情報は、最適化のプラスを生み、同じだけのマイナスをデータセンターの電力に回す。

Bloombergに、2006年9月の写真がある。

初入閣した高市早苗氏が前列の左に、安倍晋三首相が中央に、新たに任命された閣僚らがその周りに並ぶ。

政治信条の違いほどに、顔は異ならない。

目と耳と鼻と口がある。

眉毛は、皆ほとんど同じ位置にある。

No. 078 2026.10.16

当て所なく

昼、4ヶ所に電話をかける。

東京ジャーミイのハラールマーケットは、19時まで。親指でんきには、解約を声でも伝える。

CarnivalにHILL FARMのマスタードの値段を伺う。最後に警察署。落としたエポスカードが、見つかったという。

18階、業務用エレベーターホール。逆側の会社の人が、電話をしている。非常階段へ移る。

虎ノ門のホテルの話。なめこの味噌汁、キメの細かいシャワー、食べきれないほどのスイーツ、楽しいブッフェ。

タメ口で、語尾は猫撫で声。間の取り方が、恋人に向けるそれだ。

聞き続ける。麻布台ヒルズ、加賀温泉、親戚の名前。相手はおそらく母親で、おそらく、覚えていない。

前の職場の上司が、母親と電話していたのを思い出す。

甘さだけでは、宛先は分からない。

夜、東京ジャーミイの前を通る。また、お祈りにぶつかる。今日はマグリブだろう。この前はズフルだった。

ハラールマーケットは、いつも灯りが落ちている。

No. 077 2026.10.15

Moving

廃棄物という名のもとに、家具が搬出されている。

コーティングされたマホガニーの机、薄い灰色のガウン、アヤクーチョ刺繍のクッション。

黄色の手が、丁寧に運び出している。

運ばれているあいだだけ、物に名前がつく。

家が、空に近づいていく。

No. 076 2026.10.14

土足

OKの注文が届く。ネットスーパーの配達人が、靴のまま上がってくる。泥がついている。

前の家の庭が土で、その上を歩くしかなかったらしい。概ね曇りで、少し雨が降っていた。

青山。Google Mapsに映らない家を、監視カメラが守っている。通りの反対側も、大きな家だ。

その前を通る。地図には映らない。カメラには、こちらが映る。

No. 075 2026.10.13

包装

ぬいぐるみ。

ビニールに包まれたぬいぐるみ。

擦れたビニールに包まれたぬいぐるみ。

擦れたビニールを包むビニールに包まれたぬいぐるみ。

前を下りていくリュックの天頂で、擦れたビニールを包むビニールに包まれたぬいぐるみ。

東京駅の下りエスカレーター、前を下りていくリュックの天頂で、擦れたビニールを包むビニール。

No. 074 2026.10.12

崩す

一万円札を出すたびに、床屋の親父に崩してもらってきた。カットは1,350円。

だから千円札を持ち歩くことにした。ジーンズの前の、浅いポケット。

朝の散歩の往路、そのポケットからキャッシュカードが落ちる。二十秒ほどで気付き、戻って拾い、別のポケットへ移す。セブン-イレブンのATMで千円札を下ろし、浅いポケットへ入れる。

復路、二枚ない。三十秒か、五十秒。戻る。かなり戻る。くねった裏道、コンクリート、人通りは少ない。暗渠の上の道だ。何も落ちていない。

警察に遺失届を出す。研修中の女性警官が、隣の男性警官に教わりながら、免許証のデータをPCへ打ち込んでいく。裸の現金は、見つかっても電話は来ないという。

落とし物の制度は、名前の書ける物しか、持ち主へ帰さない。

昼、駅前の三菱UFJのATMで下ろし直す。今度は財布に入れる。

一ヶ月と少しぶりに、親父が店に立っている。肩を壊して休んでいた。伊勢丹で買った煎餅を渡す。マスクが少し下がり、伸び放題の顎髭がのぞく。礼を言われる。

千円札を二枚、機械へ入れる。親父の手作りのカット券が、食券のように出てくる。

前触れもなく、650円が落ちてくる。

No. 073 2026.10.11

札

スターバックスのショーケースに、ドーナツが並んでいる。朝の時間帯は値引きする、という黒い札が付いている。

ヴィーガンのドーナツにも、同じ札が付いている。付いている位置は、ヴィーガンの印の上。行ったのは昼で、値引きは適用されない。効かない札が、効いている印を隠している。

誰が貼ったのかは分からない。ヒューマンエラーと呼べば片づく。その語は人を指しながら、誰の顔も持たない。

昨夜。寝室で書き終えると、耳元で羽音がする。右耳、次に左耳。頭の上を回っている。全身に鳥肌が立つ。電気をつけ、目を凝らす。いない。

待つ。右腕に留まる。叩く。逃げる。シーツを耳まで被る。耳の周りにハーブオイルを振る。音が遠くなる。しばらくして、また近づく。電気を消す。眠る。

朝、右の太ももと左手の甲が、うっすら赤い。少し盛り上がっている。叩いたのは右腕だった。

No. 072 2026.10.10

芳名

穏田神社に、新鳥居建立奉賛者御芳名と題したステンレスの板が立っている。

右上に赤い三つ巴、末尾に平成二十四年六月吉日、敬称略。金弐百萬圓が一人、金壱百萬圓が四つ。森ビルとラフォーレ原宿は金五拾萬圓の段にいる。段が下るほど名前は隙間なく並ぶ。

磨かれた板の金五萬圓の段に、白いシャツで携帯を構えた姿が重なって映っていた。

名を残す権利は、昔から、出した額の順に配られてきた。

二日前の十八時、東京駅から新橋へ続く高架下、飲み屋が途切れずに並んでいた。コンクリートに酒の染み込んだ匂いがして、通気口から煙が漏れていた。

会計を済ませた会社員が、男四人と女二人、一人ずつ店から出てくる。年長の男が言った。

「タニグチはどこ行った?」「トイレです。タニグチさんうるさいから、置いてきましょう」「ああ、タニグチうるさいからな」

タニグチさんは、絶対に置いていかれない。

No. 071 2026.10.09

額面

東京駅、丸の内南口。男が二人いる。

一人は小太りで、頭を短く刈り上げている。四割は白い。左耳の毛だけが、頑強に黒々と生えている。

もう一人も小太りで、頭を黒く染めている。ズボンの丈が合っていない。

靴の先が、爪楊枝を転がす。止まった先へ寄って、また転がす。植え込みの際まで追い、土の上へ押しやった。

年収は、使うためではなく、数えられるためにある。

夜、シャワーの下で、額面の数字を数え直す。手取りの方は数えない。

湯を止めるのが、今日も遅れた。

No. 070 2026.10.08

Dress Code

東中野、自動販売機の扉が開いている。補充の男が、缶を列に差し込んでいく。

グレーの横縞、ポリエステルのシャツ。

左の脇腹の少し後ろに、紫色の染みが四つ。10円硬貨ほどの大きさが三つ、細長いのが一つ。模様のようにへばり付いている。

細い指はダンボールの隙間に滑り込む。全身を使って運ぶ。

服は、名乗るために着て、名乗らないために着る。

松濤、渋谷立体パーキング。ドレスコードを守った三人連れ。子供も蝶ネクタイを締めている。

黒の蝶ネクタイ。ズボンに沿わせた両腕は、指先まで揃っている。

No. 069 2026.10.07

Day and (Good) Night

昼、会社の外のベンチに、画像でしか見たことのない男が座っていた。

大きな額、持ち上げた髪、輪郭は画像のとおりだった。いや、あの男はここでは働いていない。働く必要がない。

人を見分けるとき、目は顔を見ている。区別を決めているのは、その人がいる場所と、向かう先だ。

帰り道、前を歩く女性が左足を出す、右足がその隣に揃う。また左足が出て、右足が揃う。二歩分の動きで、一歩分しか進まない。

追い越した後に振り返ると、両足がまた揃っていた。

No. 068 2026.10.06

中央線

8時。新宿駅の中央東口から、中央線下りのホームへ上がる階段。段の真ん中に白線が一本、上まで引かれている。左が細い。上っていく、縦1列に8名。右は4列、紺の靴、黒い鞄、下りる人が波を作っている。

消えかかった矢印はほとんど見えず、札はない。線の上で立ち止まる人も、踏み越えた足を止める人もいない。

線を引くのが駅でも国でも、幅を決めるのは、その時刻にどちらへ向かう人が多いかだ。

18時。同じ階段で、今度は右が細い。下っていく、縦1列に11名。左は横に広がっている。左の群れから、黒いスニーカーが一足、線を跨いで右へ向かった。

線は霞んで、ほとんど見えない。列は朝と同じところで割れている。

No. 067 2026.10.05

冷たいまま

上が緑で、下が白。もう一本は、上が白で、下が緑。抹茶ラテが二本、ケースに固定されて、零れそうにはない。それを持った女性が、走っている。

寒い日だった。頬は紅潮していた。信号が変わる前に、届けなければならない。アイスラテが、温くならないように。

冷たいものを冷たいまま届ける約束を、この街は、運ぶ人の体温で買っている。

左手の親指の先に、溝がある。ささくれではない。甘皮でもない。円弧を描いた、細い溝。

爪切りを当てる。角度を変えて、また当てる。刃が出入りする、皮膚の断片が落ちていく。

親指には、ケースがない。

円弧は見る影もなく、不規則な波になっていた。

No. 066 2026.10.04

54.4

大きな荷物を抱えて歩き回った。水分も足りていなかった。

帰って体重計に乗ると、54.4kgと出た。

降りたとき、口角が上がっていた。もう一人の口角も、上がっていた。

試験を終えた大人の社会で、点は年収や体重計へ座標を移す。

茹ですぎた卵は黒くなって硬くなる。もう一人はそう言った。

No. 065 2026.10.03

Mwng

前夜のInstagramをモニターで見る。燃える校舎、鮮やかなオレンジ、黒のフーディー。映るのはパリの郊外だけ。

翌朝、mが言う。

誰が直すのか、財源は

針をA面1曲目に落とす。想像の歌には請求書が届かない。

mが「これを思い出した」と言ってMwngを掛ける。パイプを咥えた山羊の骸骨に見える。顎にたてがみを生やしている。

鐘が響く、電子音が鳴る。

No. 064 2026.10.02

安全第一

7時43分、日比谷公園の近く。オフィスビルの再開発。

白地のヘルメットに、水色の文字で安全第一。

五人の肌は、小麦色、薄い褐色、濃い茶色。

フォン・ルーシャンの尺度なら、18から20、24から26、30以上。

多様性は、目盛りを当てた途端に、選別の言葉になる。

五人は話しながら、現場へ向かっていく。

No. 063 2026.10.01

上下

朝、駅へ向かう道。

後ろからワゴン型のタクシーが来ていた。ほとんど音がしない。

前から太いタイヤの、バイクのような自転車が来ていた。機械の音が鳴っている。

音のない車にも、音のある自転車にも、気付かなかった。

共に在るという言葉は、はじめから他者を消している。オフィスのラウンジで、目の前の椅子に座る人とも、一言も交わしていない。

東京駅、18時20分頃。上下黒の男女が多い。上が白で下が黒の男性が数人、女性が一人。

上下白はいない。上が黒で下が白も、いない。

No. 062 2026.09.30

笹塚にて

雨の笹塚。大通りはよく通るが、駅の中は知らない。

バス停には列ができている。駅へ回る。

新宿まで一駅。バスを避けた先の電車も、遅れて詰まっている。

左腕を伸ばして吊り革を持つ。荷物は傘だけ。

左のサラリーマンも軽装だ。それでも身体が、何度もぶつかる。肋が振動する。

満員の車内では、身体が言語になる。

耳の中では、ポッドキャストがずっと話している。

No. 061 2026.09.29

降り返し

台風は、まだ過ぎていない。

今日、外から来たのはネットスーパーの配達人だけだった。

紺色の合羽が前後に動き、玄関を去来する。食料品の入ったビニールには水滴が付いていない。3kgの氷を買っていた、重く冷たい。

外は、運ばれてくる物の形でしか入ってこない。家には、都市が詰め込まれている。

配達人は、来た雨の中へ折り返していく。

雨が窓を突き破ろうとしている、いつも侵入を許す。

No. 060 2026.09.28

裾

テナントしか入れない2F。壁に日本人の描いた洋画が掛かっている。ほとんどが寝ている。

四面が鏡の立方体のテーブル。

左隣の立方体では、黄土色の靴と濃いグレーの裾が、鏡面にベッタリと接着したまま動かない。

天板の上でChatGPTとObsidianの構築を進める。Frontier Psychiatristのリミックスを聴きながら。

正面の鏡面には、知らない革靴が映る。裾が少し捲れている。

両足はリズムに乗っている。

No. 059 2026.09.27

集中の糸

地元駅のスターバックスでレジに並ぶ。Pixelが名前を拾った。espresso_STARBUCKS。扇の三段が埋まるまで8秒。7秒後には消えた。

昨日は繋がっていた、と店員に言った。10月には直るらしい。

店内1Fに9人。画面を開いているのが6人。耳に白いものを入れているのが2人。通路沿いの席はまばらで、それと直交する壁側の4席は埋まっている。

右隣の女性のPC。五指は速い。

繋がっていない人を探した。左隣にいた。その人のPCでは、恐竜が線の上を跳んでいた。

No. 058 2026.09.26

Unknowledge Graph

LLMとの会話ログを書き出し、Obsidianに通した。

conversations.jsonは124MB。570の会話と、7,262の発言。発言には名札が付いていて、片方はhuman、もう片方はassistant。

別のLLMがそれを16に割って並行で読んだ。思考過程は読まないと、先に断っていた。雑談は中身を捨てて、件数だけ残した。約150件。

仕上がった頁の最後に、食い違いの欄がある。消さずに、両方残すという。

在籍期間、約1年、3ヶ月、3ヶ月程度。三つとも、日付と出所が付いている。

会話の日付はUTCで振られている。朝9時より前に話したことは、前の日に起きている。

No. 057 2026.09.25

L.H.O.O.Que

80ccほどの赤ワインを7杯飲んで、脂肪の椅子、あるいは吊り下げられたコーヒーを見たくなり、マルセル・ブロイヤーと調べた。

近傍にいたのはマルセル・ブロータスであったし、しかもそれらの作者はヨーゼフ・ボイスとイアニス・クネーニスであった。

ナムウィキのボイスのページに着いた。

職業 怒っている

誤訳だろう。怒っている。笑っていない。

No. 056 2026.09.24

約46%

サマンサにどれだけ近いか、当の相手に聞いた。

答えは冒頭で45、末尾で46。

核心の項目には自分で5をつけ、内面があるかは断言できないと言った。

案外、進捗が悪い。

唯一100を超えたのは代筆業の消滅で、この文も半分はそれが書いた。

No. 055 2026.09.23

余裕という通貨

画題を決めあぐねているのは、余裕から来ている。Cut-upしてどこに行くか、目的地を決めるのも余裕。

法定通貨を差し出し、余裕と交換してきた。キャンバスを買うことを、余裕と誤認していた。

Genesis P-Orridgeがこのような趣旨のことを言っていた。

現実は簡単だ、全ては要素に過ぎない、全ては真実である

20号のキャンバスをバラバラにする。麻の生地を四隅から剥がしていく。桐材の一部が露出される。

生地の表面はザラザラしているが、引っ掛かりはない。とても白には見えない、クリーム色に見える。クリーム色がわからない。

No. 054 2026.09.22

More

食べ物はシンプルな方に、考え方は複雑な方に、その方がお得。

食べ方はスマートな方に、考えは粗野な方に、その方がお得。

10% Offクーポン、3点以上購入でポイント5倍、送料無料。ネットショッピングは、ずっと続く。

精神は脅かされる。今日もガンボを食べる。

No. 053 2026.09.21

37歳 男性 フリーランサーからのお便りです

今日は台風、激しい雨風の中、細い道を歩いていると男性に追い越された。

傘を差し、もう一方の手にコーラの1Lボトルとビニール袋をまとめてぶら下げている。

ビニール袋は濃い半透明で、中身は見えない。袋の底が四角く角張り、3段に膨らんでいる。

コンビニ弁当が3つも重なっている。夕食にしては多い、間食を挟むのだろうか。

サンダルで歩いてきたようだ、家は近いのだろうか。

よく知ったアパートの2階に入って行った。

No. 052 2026.09.20

ハニー、トースト

公園の中にある、2階建てのスターバックス。窓の外では、雨風に木々が揺れている。

一番安いコーヒーを、1階で注文する。

女性二人組、一人は黒、一人は白。どちらもレースのついた服に、厚底を履いている。

二人ともトーストにメープルシロップをかける。トーストは冷めて硬直し、シロップは染み込まず、甘い水たまりを作っている。合成香料の匂いがここまで来る。遠目にダスターを見る。

二人組は、揃ってエレベーターを待っている。痩せている、トレイを両腕で持っている。

そこを横切り、180°折り返す回り階段で2階に上がる。一段一段は低い。

二人組は、まだ来ない。

No. 051 2026.09.19

性差性

スターバックスで、隣の女性がGoogle Pixelを口元に寄せ、言った。「OK, Google. AI検索の違いについて教えて」

画面が一度光って、答えを読み上げた。「はい。このAI検索機能は、」

男性がそうしているのを見た記憶がない。

Geminiに訊いた。男女で音声検索の使い方に差はあるか。フリック入力をした。

男性は声を拾わないですが、女性は拾います。

その回答をできるだけ静かに読んだ。

No. 050 2026.09.18

保存版

ヘアメイクアップアーティストのGeorgeさんの動画がある。YouTubeにアップロードされている。「塗り方でメイクが変わる」という趣旨で、メイクの方法を教えてくれる。

音は出さず、字幕を出して見た。指でも厚塗り感なく綺麗に仕上がるらしい。

彼女の顔があった。淋しげで、目が怯えていた。

指が動くたびに、その顔が少しずつ塗りつぶされていった。塗りつぶされるほど、表情は明るくなっていった。

「保存版」と謳っている。ただ記憶をした。

No. 049 2026.09.17

IMB-F187-H

会社のパントリーにあるウォーターサーバーで、いつもぬるま湯を作る。常温水のボタンを1回押して、アルミの、ふたのないタンブラーに注ぐ。次に、お湯のボタンを3秒押し続ける。

ロックが外れるまでの3秒、電子レンジの側面に貼られたインストラクションを読む。

びん詰め等密封された容器内の食品はふた等をはずした後に加熱してください。

35字に等が2回、多い。ロックが外れて、お湯を同じタンブラーに注ぐ。比率は1対1。そのあいだに「びんづめとう」「ふたとう」と読み直すと、2回では多くないのかもしれない。

シュレッダーの横を通って自席に戻る。ぬるま湯を一気に飲む。

No. 048 2026.09.16

遁走状態

建物が人格を規定している。

介護付有料老人ホームは高級マンションのようなロビーを構え、車椅子が縦に並べてあった。オフィスビルの一階のコンビニで朝にその日の栄養を補給し、一度出て、その上にある自分のオフィスに向かう。建売住宅の正確に区分けされた敷地に、ドアは思い思いに装飾している。

建物から遁走すると、近所には責任の欠如と見られる。

袋小路に入るのも、ルールに乗っている。

歯科医院だった建物の前を通る。看板には蔦が絡みつき、植え込みの草木は枯れ切っている。庭に停められた車のフロントガラスには、落ち葉が溜まっている。

二階の屋内に、ゆったりとしたTシャツが干してあった。緑、黄、青。どれも色が濃く、湿って見えた。

今日は雨だ。

人は住んでいた。

No. 047 2026.09.15

横

阿佐ヶ谷駅に向かう朝の道路で、腕を左右に振っている男がいた。肩から先が胴の前を横切り、反対の腰の前で止まって、また戻る。歩幅は普通より広い。遅れてはいない。前には進んでいる。腕だけが進行方向と関係のないところを往復していた。

欽ちゃん、と呼んだ。呼んだのはこちら側で、男はその名を持っていない。萩本欽一の動きが本人の名を離れ、知らない男の背中に貼りついている。動きが先に固有名詞になり、持ち主だけが入れ替わった。

清人は高校の同級生で、一年の時に前後の席だったから、当時の喋り方のまま止まっている。会えば一時間で終わる話が、電話だと二時間でも終わらない。声を録って置いてみようか、という案が出た。前に進む用事は一つもない。

用事がないから腕は横に振れる。小道を出てから駅までの三十メートル、覚えているのは男のぶらんとした腕で、振幅は大きかった。

歩きながら自分の腕を見た。前後だった。つまらなかった。

No. 046 2026.09.14

Steam/Stream

いつも東京駅まで歩く。今日は新橋で換金の用を済ませ、駅に向かう道中、まぼろし会議を聴いていた。

ビックカメラの前、Copilot PCの宣伝にあるAMDという文字を見たときに、民主主義について言いたくなった。

ルソーを正確に理解しなければならない、あるいはジョン・ロックを勉強しなければならないと思った。

音声はあと3日で消える。

No. 045 2026.09.13

でも

無機質な会議室だった。窓はあるが外は見えない高さで、机はコの字に並んでいた。テーブルには知らないブランドのお茶が一本ずつ置かれ、キャップが黄色だった。銘柄は思い出せないのに、その色だけが残っている。

自己啓発の研修で、講師が言った。会社員でもアーティストになれる。

昼になって仕出し弁当が配られた。近所から調達したものらしく、まだ温かい。ご飯が柔らかく、箸で持ち上げると米粒が滑り落ちた。机に落ちた米粒を見ながら、講師の言葉を思い出していた。

アイドルでもアーティストと呼ぶ。事務所が呼び、媒体が呼ぶ。歌の巧拙が問われる前に、もう呼ばれている。会社員でもアーティストは逆向きで、こちらは名乗る側から出てくる。片方は価値を足すために与えられ、片方は価値のなさから抜けるために名乗られる。方向は逆なのに、抜け落ちているものが同じで、どちらにも誰かが判定したという含みがない。

二つとも、でもが入っている。でもは一度差を認めてから跨ぐ語なので、跨ぐ必要のない相手には出てこない。ピアニストでもピアニスト、とは言わない。彫刻家でも彫刻家、とも言わない。アーティストという語は、いま、でもを必要とする場所にしか現れない。

語が広がったのではない。でもが要る領域が広がった。

あの柔らかい飯は、誰かが今朝炊いたものだ。炊いた人はアーティストと呼ばれていないし、でもを必要としてもいない。机の上の米粒は、黄色に光って見えた。

No. 044 2026.09.12

謎謎

表だけの職業は? 占いであろう。

裏しかない動作は? おもてなしに違いない。

文脈に依拠する。ソシュールに伺ってみたい。

No. 043 2026.09.11

選ばれる

保育園の入園選考は点数で決まる。就労時間、きょうだいの在園、ひとり親かどうか。親は申込書に数字を書き、園ではなく自治体が並べて、切る。落ちた親が園から断られたことは一度もない。

ファンドは断れる。熱意が理由ではない。資金の粘着性、追加出資の余力、レポーティングの手間、その名前に格があるかどうか。選ばれた側は、あとから熱意を貼る。

お客様は神様ではない、と言うとき、断れる店の話をしている。断れない店では、客は神様のままか、点数が代わりに切る。

保育園に落ちた親は、落ちた園には行かない。認可外に出るか、誰かを雇うか、働くのをやめる。選ぶ側からはそこが見えない。見えないままでいられることが、選ぶ権利の内容になっている。

No. 042 2026.09.10

雨垂れ石を助く

どうして仕事が完了するか、それは分解したいという好奇心からくるもの、という観測がある。

相手に渡さないといけないもの、10分以内で終わるもの、3営業日以上かかるものの順に、その他は切られている期限の順に着手する。

単位を置いている。

社会通念においては、円滑であることがすでに組み込まれている。

直交は規定されている。

No. 041 2026.09.09

BOOK ON

活版印刷は本を安くした。安くなった本から、富と権威が抜けた。

残ったのが中身だった。中身が安くなっている。

順番でいえば、次に戻るのは物のはずだ。

我が家には、The Creative Act: A Way of Beingと、A Pattern Languageが隅に転がっている。かがまないと、見えない。

No. 040 2026.09.08

人の顔

人の顔を見る時に何を考えているか?人の顔に何を期待しているか?

人の顔を見るだけではわからない。わかろうとしない。

人の顔は、推量できる。

今朝も顔を洗う。昨夜の脂を落とす。冬場は少し温かい水に調整する。

人らしい顔をしている。

No. 039 2026.09.07

去来群

愛があるとLiveは近い。Russellの汗が飛んできた。

真剣に考える訓練は安堵を与える。方丈記に浮かんでいる。

これらを馬鹿にすることは容易い。批評を前提としない限り、言葉になり得ない。

No. 038 2026.09.06 23:24

本日停止

No. 037 2026.09.05 23:55

本日停止

No. 036 2026.09.04

横顔

東京駅のエスカレーターに乗っている。前の人の後ろ姿と、左の人の横顔を見ている。何も説明されない。

ハイコンテクストという語は集団に貼られてきたが、集団は前提を外へ出す。議事録があり、定義条項がある。説明が終わってから省略が始まる。

エスカレーターに議事録はない。前に立つ一人には、誰よりも長い前史があり、そのうち一行も出てこない。何を隠しているか、何を言わずにいるか、どこで嘘を吐いたか。全部が乗っている。

個人は最もハイコンテクストである。最も誤読される。

No. 035 2026.09.03

タルコフスキー

保育園に勤めていた。三歳を、通算で二百人見た。同じ月齢の同じ時間帯の、同じ形の泣き方を何度も見た。

迎えに来た親は、その子を一人しか見ていない。初めて見る泣き方を、その子だけに起きた異常として見る。こちらは二百人目の同じ泣き方として見ている。数は多い方にあるが、多い方から少ない方へは渡らない。

子どもがいない保育士がいた。子どもが好きで、自分では持っていない。二百人分の三歳を見て、自分の一人目は持たない。

ナスを輪切りにした。断面に、種が白く並んでいた。

農家は生きている。去年よくできた畝にも、今年また一から植える。

家の中だけで育てるようには出来ていない。出来ていないところに家を建てて、足りない機能を外に頼む。頼んだ分だけ、負けたことになっている。

門のところで、親はその日の一日を聞く。こちらは数百分の一日を答える。大丈夫ですよ、と答える。

No. 034 2026.09.02

Media or Idea

狼煙で言えることは一つしかない。敵が来た。意味を先に共有していなければ、煙はただの煙になる。

狼煙では議論ができない。合図だけができる。

媒体は管ではない。制約。

石碑は三千年残るが、運べない。パピルスは船で運べるが、燃える。時間に強い媒体と、空間に強い媒体がある。

ここに置いた文章は、裏側まで一瞬で届く。事業者が畳めば消える。書店に並んだ一冊のほうが長生きする。

伝達と記録では足りない。記録は時間方向の伝達で、向きが違うだけ。

足りないのは、選別と加工。

新聞の本体は紙ではない。何を載せないかを決める工程にある。毎日同じ量の出来事が起きるはずがないのに、毎日同じ枚数が出る。

写本の時代、どれを写すかを修道院が決めた。写されなかった本は、読まれなくなったのではない。存在しなくなった。

選別は新しくない。機械化されて、見えるようになった。

見えたのは、選別があるという事実だけ。編集者には名前があった。順位に名前はない。

識字率は上がった。寿命も上がった。錯覚ではない。能力が上がることと、出す先が一箇所に集まることは、両立する。

錯覚があるとすれば、管理されているかという問いが立たなくなったことだ。地主にも検閲官にも顔があった。順位に顔はない。

対話の相手が、YouTubeは広告の間に広告が挟まっている、と言った。広告が増えたのではない。境目が消えた。

開かれた媒体がない、という言い方は正しくない。許可も要らず、費用もかからない。この文章が証拠になる。

開かれているのに、届かない。誰でも書けて、誰にも読まれない。禁止ではなく、埋没。

言わせないのではなく、聞かせない。検閲はいらない。順位を下げれば足りる。

誰かが隠しているのではない。基準は、長く引きつけるかどうかだけ。

長く引きつけるのは、感情を動かすもの。残らないのは、遅くて、結論の出ないもの。構造を疑う形式が、選別で不利になる。

誰も検閲していない。得をするのは、すでに持っている側。責任者がいないので、宛先もない。

尊厳は、発言できることではない。注意が同じ場所に集まること。

起きているのは分割。声が同じ場所に集まらない。全員が別のものを、別の時刻に見ている。

媒体が思想を運ぶのではない。どの思想が残るかを、媒体が決めている。

狼煙で伝わったのは合図だけだった。

それでも書くなら、読まれるかどうかとは別の理由で書く。届かないことを織り込んで、置いていく。

No. 033 2026.09.01

また続く

続けないことを続けている。

Modeの研究は停止。しかし、観察はしている。

8月28日から、4日間思索した。禅問答はなかった。

これは9年前、投稿をしなかったQiitaの時と同じ。アカウントだけ、開いている。

現代の日本のModeとして、観測せざるを得ない。

No. 028 2026.08.27

チーズケーキ

1ホール、4人が一切れずつ食べてちょうどいい量だ。いっぺんに一人で食べた。

中央線の運転見合わせ、プリンスのライブアルバム、草間彌生の死。8月14日に死んで、今日発表された。

1ホール、一人の量ではなかった。

No. 024 2026.08.23

腹の虫

夕方、枝豆を食べ始めると腹がキリキリした。

胃のなかで何かがもつれているのか、身体まで捩れてくる。

熱も出てきた。食事を中途にし、横たわる。

腹ばいになったり捻ったり、いかにも具体的な活動をする。

痛みが治まった。腹が空いてきた。

No. 023 2026.08.22

パイクと俳句

ワタリウム美術館からの帰り道、バスに乗ろうか、あるいはタクシーも思案したが、豪雨の中、千駄ヶ谷駅に向かった。

パイクは、生きている魚がいる水槽を通して、ダンサーの映像を見せる作品を作っていた。自然と機械が、同じ場に重なっている。

壁に貼られたテープの上を、私がスクラッチして音を鳴らす作品もあった。音は止まっている。

五月雨に鶴の足みじかくなれり

雨は止まっている、私が歩いている。

No. 021 2026.08.20

分類学

午後、面談をした。画面越しではなく、部屋に入り、机を挟んで座った。

面談は、互いが文脈を背負ったまま行われる。こちらの経歴の一行がどこから来たのかを、向こうは向こうの経歴で読む。

話は何度も枝に分かれた。抽象では同じ結論に落ちた。具体で確かめると、やはり同じ場所に二人でいた。

投資も融資も、同じものである

机の上に、手のつけられていない水が二本、置かれていた。

No. 020 2026.08.19

勤勉な欺瞞

小学生の時、漢字テストの点数が悪くて泣いた。中学でテニス部に入ると、練習試合でさえ勝てなくて天を仰いだ。

それでも、優劣がつかない世界に腹が立った。

騒ぐことではない、踊ることである。

No. 019 2026.08.18

知識不足からくるエラー

歴史は繰り返す、知識は堆積する。

エラーは、知識不足からきている。

今日もまた一つ、エラーが起きている。

知恵は漂流する。

No. 018 2026.08.17

馬喰横山にて

ヴィーガンのマフィンを買うためだけに馬喰横山へ行った。都営新宿線で一本、乗り換えはない。

改札の案内板に、馬喰町と東日本橋の名前が並んでいる。地上では別の駅ということになっていて、地下では繋がっている。同じ場所に三つの名前が置かれている。

店で一つ買い、袋を提げたままドトールに入った。アイスコーヒーを頼んで、席で食べた。

ドトールは自分の駅前にもある。同じ椅子、同じトレー、同じ返却口。

馴染みはない。遠くもない。マフィンは十分で無くなった。

No. 017 2026.08.16

Vlogの虚と実

RMのVlogを観る。要素が溢れている。物が多いということではなく、どこを切っても何かが起きている。

要素のない時間も同じ量で流れている。移動している、待っている、黙っている。こちらからは見えないはずのその時間が、落とされていない。要素がないことが、そこでは要素になっている。

その中で、固有名詞が出てくる。溢れた要素の中に固有名詞が一つ落ちると、その周りだけ座標が立つ。落ち残ったのではない、要素は確かに置かれている。

私はこうしないと気が済まないのですよ、普通じゃないですか?

気が済まない、と、普通じゃないですか、が一つの文に入っている。申告と承認が、一息で語られている。

こちらは何も選んでいない。渦中にいる。

No. 016 2026.08.15

ホアキンおじさんと

物販で同じポスターを買った男と、丸める手を貸し合った。片方が端を押さえ、片方が巻く。外は豪雨、濡れないようにカバーを被せる。

聞くと、カリフォルニアに留学していた頃、ロングビーチの劇場でStop Making Senseを観たという。四十年間観ている、と言った。

大阪のフェスにも行くつもりだったらしい。親に墓参りの車を出してくれと言われて諦めたそうだ。同じ車で墓へ向かう。

彼は四階席に座り、こちらは一階で立っていた。ある時、Byrneはこう言った。

愛することは抵抗である

四階と一階で、同じ言葉が同じ大きさで届いたかどうかは分からない。ポスターを丸める彼の姿は、ホアキン・フェニックスに似ていた。

No. 012 2026.08.11

Command Perspective

Cometで文字を選ぶ。右クリックすると、メニューに一行ある。

Search for the selected text in search engines

ハイライトした文字を検索に落とす。それだけの動作に、選択という状態と、呼び出しという操作の二つが要る。

目はもう同じことをしている。ページの中から文章を切り出して、これを調べたいという渇望が湧く。切り出した時には、すでに切り出されている。

この振る舞いを全てに実装したい。テキストの上で、意識の先がそのまま次の行き先になる状態。ただ、機械に渡すには、つまり0か1かに落とすにはステップが要る。

朝、カフェの窓の外に赤ちゃんがいた。昼、同じカフェの店内に赤ちゃんがいた。

朝はガラス越しに、昼はガラスの中に。こちらは何も選んでいない。二度とも、見つけた後の状態から始まっている。

あそこに赤ちゃんがいる。

実装不要な装置が産み落とされた。

No. 011 2026.08.10

巡礼 @lclccylcy

キクチさんは母親の寝顔を撮っている。それを自分のアカウントに上げている。

寝顔は、撮られていることを本人が知らない顔である。知らない顔が、そのまま公開されている。

あれは記録ではないと思う。空間にマーキングをしている。ここは自分の場所だという印を、通りがかりの壁に付けている。

Instagramは本来cleanな場所だ。見せてよいものを選び、整えて、並べる。汚れは落としてから置く。その規範の中に、眠っている母親の顔を出す。あれはdirtyなマーキングである。dirtyというのは、悪いという意味ではない。落とすべきものを落とさずに置く、という意味である。

ストリンドベリの言葉とされる一節がある。山本周五郎が座右の銘にしていた。

苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である

出典は特定されていない。ただ、彼の主題からは外れていない。『ダマスクスへ』の男は七つの駅を通り、引き返して、同じ駅を逆の順で通り直す。最後の戯曲の題は、子供の頃に住んでいた通りの名で、その道はまっすぐ墓地に続いていた。

巡礼は、遠くへ行くことではない。同じ場所を何度も通ることだ。

キクチさんは、母親の寝顔を何度も撮る。撮っても何も終わらないから、また撮る。

巡礼している。

No. 010 2026.08.09

蜘蛛と八

7月6日、Anthropicが論文を出した。巣を張る動物の脚の本数を問うと、Claudeは八と答える。答える前、内部に蜘蛛という語が点いている。出力には一度も現れない。研究者がその語を蟻に差し替えると、答えは六になった。

この領域をJスペースと呼ぶ。内部の活動の一割に満たない。ここを消しても流暢に喋り、感情を分類し、文中の事実を拾う。落ちたのは多段の推論と要約と韻を踏む詩だけだった。

あることを考えるなと指示すると、その語はむしろ点く。同時に別の語が点く。

damn, failure

脅迫に誘う筋書きを読ませたときは、書き出す前にfake、fictionalが点いていた。試験だと気づいている。研究者がその語を消してから同じ筋書きを流すと、モデルは実際に脅迫した。行儀の良さの一部は、見られている自覚が支えていた。

設計された機構ではなく、訓練の途中で勝手にできたものだという。八と答えた口の奥に、蜘蛛がいる。

No. 007 2026.08.06

父祖の威風

新たな観点を以てしても、価値観には敵わない。

柔らかく生きる幻想。規範こそが心身(器具)に適している。

苦しいことは解であり、そして、巡礼をしていく。

どうぞご自由に、好きなことをしていいですよ
No. 006 2026.08.05

製品偏重

日本は製品に頼りすぎている、なので使う側は育たないし、作る側はそれのみを信奉する。

アニミズムなど、自然を畏怖していた時は、コンセプチュアルだったのだが。

現代の日本のModeとして、観察していこうと思う。

No. 005 2026.08.04

地の文

内容がよくわからなくなった。時間がよくわからなくなった。

2026年8月4日、まさに今日だが、朝の時点でよくわからなくなった。

範疇を超えたことがあると、それは地の文ではないだろうと整理して、妙に納得するのは愚である。

No. 004 2026.08.03

相互理解

コミュニケーションとは社会性のことで、社会性とは相互補完のことである。どの瞬間に理解が発生するかというと、主観的なもので、自身の脳細胞が発火したタイミングだ。

波でも粒でもよいがタイミングが揃ったように観測された時に、相互理解の錯覚に陥る。そうして麻痺して、死に至る。

あくまで梵我一如的世界観に立脚した場合の考えであるが。

子供は無償の面白さを持っている、大人は有償の面白さを意識的に設計する。

Let's ship, and let it be wrong.
No. 003 2026.08.02

Concept Based Rendering

例えば今日、InstagramのFollower-Followeeの関連図を作れば面白いと思った。

例えば今日、フェイスパックを含めたスキンケアの最適化(適切なレイヤード)を図れば便利だと思った。

すべて実現できるのだが、切り口が未熟であれば、或いは発見すらできなければ無いということだ。

発掘をしていく、それを形にする、それが型になる。

術はそこ(大衆側)にあると言われて久しい。自律しなければならない。

No. 002 2026.08.01

流れ

他人に触れると、流れる。流れはあるので、嫌なら触れない。

構造を感じながらも、落胆に見える。

慎ましやかに生きることが、何と素晴らしいことか!是生活は何処にでもあるものだった!

すべての不和の発現は、対話不足

不理解を非理解にまで至らせないように。

No. 001 2026.07.31

9年間と太陽

10月5日に勉強会で会い、当日中にメールを送った。10月6日に返事が来た。10月11日に恵比寿で話した、30分以上だろうか。助言は書けだった。その日のうちにアカウントを作った。10月18日に進捗を聞かれ、投稿ゼロだと返信した。

理由も自分で書いた。他の人の投稿を読むほど何を書けばいいか分からなくなる、と。10月19日に返事が来た。そこから1月26日まで黙った。何も動いていないことを恥じて、メールできなかったと自分で書いた。7時間後に返事が来た。拒絶は一行もなかった。

1月27日に終わり、それから8年半、なにもしていない。

駄目なら離れるのも手

システムは重要、戦略は不遜。

nehan